イチゴタルト04

ふう、と誰ともなく一息ついて、ゴンが切り出した。
「それで、イルミはなんの用だったの?」
こういうところ変わらないな、とキルアは思った。ゴンの中ではもう、ヒソカとイルミは付き合っていて、自分たちのことも二人は知っているという構図が出来上がっている。そこに戸惑いや疑問はないのだろう。事実を事実として受けとめられる素直さは柔軟さをうむ。
イルミは紅茶のカップをソーサーに置いて事も無げに言った。
「父さんが一度顔見せに戻ってこいって」
キルアは即答しなかった。眉間に皺を寄せて黙っている。イルミは、それを気にした様子もなく続けた。いつでもいいけれど、できれば早い方がいいこと。家に戻れということではなく、単に執事たちを含めみんなが寂しがっていること。事務的でのんびりした独特の口調だった。そして最後にゴンをつれてきてもいい、オレもヒソカをつれていくから、と言った。キルアの表情がぴくりと変化を見せる。
「イル兄、今何処に住んでんの」
「ヒソカのうち」
予想していたのだろう。大して驚きもせず、キルアはヒソカをじっと見た。不躾な視線に、ヒソカは薄笑いを浮かべるだけだ。キルアは先ほどのイルミのようにため息を吐く。
「よりによってヒソカかよ」
ゴンが小さく笑った。でも、と続ける。
「なんか、お似合いじゃない」
ヒソカはちょっと目を見開いた。
「当たり前だけど、言われると嬉しいね。しかも、ゴン。キミからなんて」
キルアも言ってくれると嬉しいな、と続ける調子はいつも通りだ。けっとキルアは悪態を吐いた。
「誰が言うか。さっさとイル兄に捨てられちまえ」
「困ったな、嫌われちゃった」
「最初から嫌いだっつーの」
にべもない返事に、ヒソカはわざとらしい悲しい顔を作った。その横で紅茶にも手を着けず無表情だったイルミが、口を開く。
「オレとゴンも仲良くなった方がいいのかな」
ゴンは突然自分の名前が出たことに驚いて、イルミの方を見た。何を考えているのかわからない無表情さで、真っ直ぐにゴンを見ている。どうしよう、とキルアに視線をやったらキルアはタルトに集中していた。放棄することにしたらしい。ヒソカはそうだねえと相槌を打って完全に楽しむ顔になっていた。
「ゴンはキルアの恋人で、オレはキルアの兄だから、仲良くしないとぞうきんの汁のまされるんでしょ」
「………」
そうなの、と驚いてゴンはキルアを見やれば、キルアはうんざりした顔をしてヒソカに視線をやった。ヒソカは小さく笑って、そんなことを吹き込んだのは自分ではないと証明するように、イルミに誰に聞いたのと尋ねた。
「クロロ。オレもよくわからないんだけど、っていいながら教えてくれた」
喋っていて気付いたらしい。イルミが、あ、と声をあげた。
「キル、いくらヒソカが変態で嫌いでもそういうことはしちゃいけないよ」
「…しねーよ」
疲れたようにフォークを運ぶキルアに、ゴンはなにも言えなかった。ただ苦笑して、オレもそんなことはしないよ、とイルミに言った。そう、と言うわりにイルミの表情に変化はない。だがそれはゴンから見ただけの話であって、キルアやヒソカは違ったらしい。ヒソカは、ちらりとゴンを見るし、キルアは最後の一欠片にフォークを刺したまま言った。
「ゴンは、オレがイル兄のこと嫌わなきゃ嫌いにならないって」
「…そう」
今度のそう、の違いはゴンにもわかった。明らかに安堵したものだったから。それに満足したのか、ヒソカはよかったねと言わんばかりイルミの頭を撫でてやり、それを見てしまったキルアは食べる気がしなくなったとばかりにタルトが刺さったままのフォークを皿の隅に置いた。

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