イチゴタルト03

テーブルが一気に華やかになる。飲み物が先にきて、それからすぐにつやつやとした大粒のイチゴがのったタルトがイルミとキルアの前に置かれる。真ん中あたりにちょこんとのっているミントの緑が苺の赤と相俟っていっそうタルトを美味しそうに見せていた。早速フォークを手に取り、タルトに刺すイルミとキルアの仕草は何処か似ていて兄弟なんだなあとゴンは改めて思った。そうしているうちに、キルアはフォークを口に入れ、美味いと言った。それは、自然に滑り落ちたみたいで、本当に美味しかったんだろうと思わせるに十分だった。同じように一口目を食べ終え、タルトにフォークを刺していたイルミが嬉しそうな顔になる。
「ホールでも売ってるから」
「マジで」
ちらっとキルアがゴンを見る。ゴンは苦笑した。今日の夕飯のデザートはこれで決まりだ。ヒソカがまた店員を呼んだ。イチゴタルトのホールを二つ、テイクアウトで。かしこまりました、と店員が言い終わった途端キルアは口を開いた。
「なあ、ほんとになんであんたがいるんだよ」
「ボクもちょっと不本意なんだけどね。イルミがキミに用があるっていうから。ほんとだったらデートできるはずだったのに」
「は?」
ヒソカの顔はたいそう残念そうであったが、キルアもゴンもそんなものは目に入っていなかった。デート、という言葉が彼らを支配する。最初にそこから抜け出たのはゴンだった。イルミはただ黙々とイチゴタルトを食べている。
「…デート、ってなにするの?」
「知らないのかい?」
「知ってるけど…」
ヒソカのいうデートが世間一般で言われているデートと同じものかどうかは怪しい。ともすれば命がけの闘いだってデートと言い切る男である。そんなゴンとキルアの心内をわかっているのだろう、ヒソカはクククと楽しげに笑った。
「じゃあ、そういうことだよ。なんてったってボクとイルミは付き合ってるんだからね」
また意味が理解できない単語がヒソカの口から飛び出した。付き合ってる、って。買い物とかじゃないよな、とあまりの衝撃にキルアの思考が現実逃避を始めたところに、第二波が来た。
「キミたちもそうでしょ?」
「え、そうなの?」
イルミのフォークを持った手がぴたりと止まる。キルアの思考も同じように止まってから、すぐにしっちゃかめっちゃかに動きだした。そのせいで上手く言葉がでないのに、顔が熱くなるのだけはよくわかった。それがまたパニックに拍車をかける。ゴンはどうなのだろうと横を見て、キルアはいやな予感を感じた。ゴンの横顔がちっとも赤くなったり青くなったり、つまり焦っていなかったからだ。
「そうだよ」
「ゴン!」
やっぱり、と思う。余計顔が赤くなるのがわかった。ヒソカがさっきより大きな声でクククと笑う。楽しくてたまらないという様子だ。イルミは、無表情の中に少しだけ怒りに似た感情の色を混ぜて、ゴンを見た。底の見えない闇のような目は、ゴンの心に細波を起こしたがゴンは目を逸らすようなことはしなかった。ぱちっとイルミが一つ瞬きをする。そして、ため息を吐いた。タルトの最後のひとかけにフォークを刺して、ヒソカの方を見ずにどうして教えてくれなかったのと責めた。
「さっき気付いたんだよ。勘だったしね」
ごめんね、と笑いをおさめて柔らかい声でイルミに謝るヒソカを、ようやく開き直ることで復活したキルアが睨みつける。
「カマかけたのかよ」
「気になったから確認しただけだよ」
ヒソカとイルミが付き合っているというのは本当らしい。イルミに向ける顔と、キルアに向ける顔は全く違った。先ほどのイルミの声も拗ねるような声だった。それはすなわち、甘えているということだ。シルバにもキルアにも、誰にも聞かせないような声だろう。キルアはなんとも言えない気持ちになって、黙り込んだ。まだ半分も食べていないタルトに手をつける。それに習うようにしてゴンはストローに、イルミとヒソカはそれぞれ紅茶とコーヒーに口をつけた。

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