イチゴタルト02
「…なんで、ヒソカがいるんだよ」
「ヒソカが黙っててっていうから」
イルミと、それからその隣にいるヒソカは店内で目を引いていた。それは彼らが非常に危険な人間だからとかではなく、単に容姿の問題だった。黒目がちの大きな目とキルアと同じく日に焼けたことなどなさそうな白い肌、それから艶やかな黒髪が、イルミを表情の乏しさもあってとびきりの人形のように見せていた。そしてその横にいるヒソカは、ゴンやキルアがよく目にしていたやたらと派手な奇術師の格好ではなく、やわらかい金髪で酷薄そうにも優しそうにも見える不思議な雰囲気を持っている茶色の瞳に、恐ろしく造形の整った男になっていた。服装もシンプルでセンスのよいものだ。
そんな二人が一緒に居れば、いやでも目立つ。けれど、終始注目を浴びているわけではなかった。はっと視線をやられては、きれいなカップルねえと言われてお終いだった。二人ともうまいこと周囲に溶け込んでいた。
だから最初にキルアがイルミを見つけ、声をかけようとして、隣の男に気付いたのだ。疑問に思って首を傾げるより早く、ゴンがヒソカだ、と呟いた。ほとんど無意識のようだった。聞いた瞬間に改めてイルミの隣の男を見、キルアもゴンと同じく身体を強ばらせた。その乱れたオーラでキルアとゴンに気付いたらしい。いや、もしかしたらもっと前から気付いていたのかもしれないが、とにかくそこでヒソカは二人に手を振った。まるで自然に。けれどそういう演技めいたものはヒソカの得意分野であったから二人はすぐにそれに応じなかった。どうする、と目線でやり取りしながら頭を回転させ、結局最初に警戒を解いたのはキルアだった。イルミは騙し討ちなどしないという自信があったからだ。ゴンは少し納得いかないようだったが、ずんずんイルミとヒソカに向かって歩き出すキルアに諦めたように警戒を解いた。普段と逆だなあと思いながら。
そして、冒頭に戻るのだ。
「驚いたでしょ?」
楽しげにいうヒソカは、普通の格好をしていてもヒソカなのだと思い知らせるのに十分だった。ただ戦意は全くないようで、キルアとゴンをようやく心から安心させた。キルアなどは、うるさい、何しに来たんだ、と食って掛かっている。ヒソカは、イルミがいるからね、と食えない笑みを浮かべて応えた。どういう意味だ、とキルアとゴンが聞くより早くイルミがゴンにメニューを差し出す。
「何頼むの?」
「………えっと、オレンジジュース」
「そう。キルはイチゴタルト食べるから紅茶でいいよね」
「…なんでもいいよ」
話の腰がぽっきり折れて投げやりにキルアが応えると、ヒソカが店員を呼んでオーダーをした。コーヒーひとつ、紅茶をふたつ、オレンジジュースをひとつ。それからイチゴタルトをふたつ。店員が完全に行ってしまうのを見計らって、キルアが口を開く、前にイルミがまた言った。
「髪、伸びたね」
「…兄貴の方が変わったよ」
「たいして変わってないと思うけど」
「髪じゃなくて」
じゃあ何、と言いたげなイルミにキルアは頭をがしがしと掻くだけで何も言わなかった。けれど、ゴンはなんとなくわかったような気がした。ハンター試験のときは本当に能面のようだったが、今目の前にいるイルミにはささやかだがちゃんと表情がある。雰囲気も穏やかだ。それはよくよく注意して見ていなければ気付かない程度のものだけれども。
「まだ仕事してんの?」
だからキルアの質問は最もなように思われた。こんな風に表情に変化があって、雰囲気もあって、果たして彼が昔言った闇人形とやらになれるのだろうか。
「してるよ。他にすることないし」
穏やかだった雰囲気に小さなヒビが入る。ゴンにはそれが意外だった。キルアはしまったという顔をして、イルミは能面に近づいた。ただヒソカだけがやわらかく微笑みながら、それよりキミたちのことを聞きたいなと言った。
「また一緒にいるんだね、別れたって聞いたけど」
「まあね。オレとしては、兄貴とあんたが一緒にいることの方が不思議だけど」
ほんとに、とゴンが心の中で言うのと同じタイミングで店員から声がかかった。
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