03

キルアと別れてから三年が経った。ジンは二年目で見つけた。クラピカとレオリオに報告したら、感動の再会だな、よかったなって言ってくれたけど実際はそんなものじゃなかった。そりゃ感動しなかったなんて言ったら嘘だけど。でも、ジンと会ってもう次の日とかその次の日くらいからキルアのことで頭がいっぱいになってわりとジンはどうでもよくなってしまった。そういうところもジンらしいのかも、しれない。少しだけそういう自分を呪う。キルアがあの家を呪う気持ちもこんなのだったのかな、ってやっぱりキルアのことを考えながら。
最初はキルアに報告したい、だった。本当ならキルアを連れて一番の友達だよって紹介するつもりだったんだから。そういう意味ではもう一度ジンを見つけなきゃいけないなって思う。キルアの携帯アドレスは知っている。あの日約束したときから、オレはどんなに迷惑メールとか迷惑人間が襲ってきても自分のアドレスは変えなかった。迷惑メールはともかく、迷惑人間は少し厄介だった。オレがまだ子どもだからやりやすいと思ったのだろう。わりと頻繁にやってきた。もちろん全部返り討ちにしたけれど、一度だけ酷い怪我を負わされて、たまたま近くにいたレオリオにお節介になった。そしてレオリオは、オレからキルアに伝えておいてやるから変えればいいのにと口を滑らせた。あの顔は、そういう顔だった。オレはそれに気付かないふりはできなくて、苦笑しながらいいよと応えた。
レオリオはそれきりその話はしなかった。キルアはどうなの、と聞きたかったけど、キルアもアドレスと変えてないだろうと思ってやめた。確信半分信仰半分。だからいっそメールでも電話でもすればよかったのに、いざそうしようとすると手が止まった。どうしてだろう、と足りなって自覚している頭をつかってうんうん考えて結局行き着いたのは口実がなくなるから、だった。メールしてしまったら。電話してしまったら。ジンが見つかったよって報告してしまったら、会いに行く口実がなくなってしまう。会いたいんだって、その時やっと気付いた。それから、あのときレオリオに本当に聞きたかったのは、キルアはどうしているの、だったことにも気付いた。キルア、キルア。会いたいよ。
オレは本当にバカだ。キルアと一緒にいた頃よく言われてたけど、本当だなって改めて深く思う。キルアと一緒にいた頃、キルアが一緒にいたら、オレはこの三年間そんなことをよく考えていた。毎日、キルアのことを考えていた。知らないうちに、気付かないうちに。会いたかったんだ、ずっと。それは生易しい気持ちじゃなくて、もっともっと深いところで。それでも会いに行かなかったのは、ジンを追いかけていたからっていうのも大きいけど、キルアの決意を無駄にしたくなかったから。そう、だからジンを見つけてキルアに会いたいって自覚してから半年間我慢できた。キルアが、オレを追い立てて、オレを止める。オレはキルアに動かされている。そんな気持ちにさえなった。
そんなどうしようもない気持ちをぽつぽつと足りない言葉でレオリオとクラピカに語ったら、レオリオはぐしゃぐしゃと自分の頭を掻き混ぜて、クラピカは少し頬を赤らめて困った顔をしていた。
「あー…、まあ、ゴンお前はくじら島にずっといたんだったな」
「そうだけど」
なんの関係があるの、と首を傾げればクラピカがごほんとわざとらしく咳をした。何か話すのかな、と思ったけど視線をレオリオにやって、どうやらレオリを急かしたらしい。
「…女の子、とは」
「女の子?」
なんかまどろっこしいなあ、と思うだけで何が言いたいのか全然想像ができなかった。それをレオリオは悟ったらしい。付き合う、とか、と言葉を足した。
「デートしたり、ってこと?」
「そうだ」
「あるよ」
レオリオとクラピカの目が大きくなった。驚いた様子が、パームと付き合うことになったときのキルアの反応を連想させる。あのときも、ひどく驚かれた。
「ジンを追っかけるのに忙しかったんじゃないのか」
クラピカが動揺した様子で聞いてきた。オレはそういうのに縁がないと思われているってことだって気付いたらちょっとむっとした。
「忙しかったよ。だから、ハンターになってからは誰とも付き合ったことはない。だけど、くじら島にいた頃にお姉さんたちにいろいろ教えてもらった」
「いろいろ教えてもらったって…」
レオリオが驚きと困惑と半々の顔を見せる。クラピカも似たようなものだった。そんな二人を見ながら、そういえばパームがいたなと思い出す。さっきも頭をかすめたくせに。それでもあえて口にはしなかった。
しばらく二人は黙っていたけれど、先に立ち直ったのはレオリオだった。まあ、いい話を戻そう、と決意も新たにという顔で切り出す。
「教えてもらったっていうことはあれだな、恋なんつーもんはしたことないわけだ」
「…うん」
恋。旅は基本的に一人で、あちらこちらをフラフラするジンを追いかけていたから、そんな機会あるわけなかった。たまに知り合った人の幸せそうな話を聞いて良かったねと思うことはあっても、ピンとはこなかった。
「恋っつーのは、なんだか知ってるか」
「だいたい…」
口にして、はっと気付く。表情が変わったことに二人は気付いたらしい。苦笑するような顔になった。
「………ねえ、オレは」
「察しがいいのは相変わらずだな」
鈍いのは変わらんが、と微笑むクラピカもどうやら先ほどの衝撃から立ち直ったらしい。そういう何かを見守るような、やさしいクラピカの顔は好きだった。彼によく似合っていると思う。レオリオも。だから二人は一緒にいるのかな、と思い至ってオレはキルアと似ているだろうかと思った。
「だけど、オレどうしたらいいだろ」
一緒にいられない、と言われたあの日。キルアの弱々しい瞳の中で、ピンと張った糸のような強い鋭さを忘れたことはない。それがオレを今日まで押しとどめてきたものだから。
「好きにすればいいさ」
レオリオが言った。余裕のある、なにかも知っていると言いたげな顔だった。クラピカに視線をやっても、同じような顔が返ってくるだけ。それでもオレは不安がぬぐえなかった。戸惑うオレに、クラピカが口端を持ち上げてちゃかすような顔で言った。
「ハンターとはターゲットの都合を考えるのか?」
「………確実に手に入れたいなら」
心がひたりと落ち着く。獲物を目の前にしたときの緊張感に似ていた。それでもクラピカは確かにそうだな、なんて変わらない調子で続ける。
「ターゲットの状態を見極めることは大切なことだ。ならばそのための情報を手に入れる必要があるな」
「うん。…教えて」
「お前、そういうところは相変わらずだな」
くしゃりとレオリオがオレの頭を自然な動作で掻き回す。張りつめていた緊張がふっと緩んだ。子どもだからとなめられるのは好きじゃないけれど、その手には慈しみがあるから怒れない。
「一週間後、だな。キルアを捕まえるなら」
「それまでは大人しくしていた方がいいだろう」
できるか?と尋ねるクラピカはからかうようだったけれど、オレはそれよりキルアに会えることが嬉しくて素直にわかったと返事を返した。それはまるで子どもみたいだったのだろう、二人の眼差しはことさら穏やかだった。

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