プロローグ04

「でゅ、お…うー…」
カトルの、ふぇい、は声にならなかった。トロワもヒイロも目を見張って、言葉を無くしている。もともと余計なことは喋らない二人だが、空気がそう伝えている。デュオも五飛も苦笑した。驚くだろうとは思っていた。けれど、それより先に用意された服装に自分たちが驚いた。恥ずかしさが勝って、散々レディとサリィの前でぐずったのだ。何故かリリーナもいた。それが致命的だった。若き政治家はそれでも政治家で、あれやこれやと言うデュオと五飛をきれいに押さえ込んでしまったのだ。そうして、仲間たちが驚くよりなにより恥ずかしさでいっぱいになった気持ちで部屋に入ってきてみれば。恥ずかしさも吹っ飛ぶような、滅多に見られない反応が返ってきたのだ。
「………にん」
「む、じゃないぜ?」
「まだ身の振り方も決まっていないだろう」
トロワをばっさりと切って捨てる。ええと、とカトルが何か言おうとして失敗した。デュオと五飛の苦笑はおさまらない。笑われることを覚悟してきたというのに、この反応だ。
「んなに驚かなくったっていいだろ?」
「あ、はい…」
そうはいっても、というのが三人の心の声だった。ドアから入ってきて、目の前に立つ二人は、確かに見知った顔なのに美しい。愛らしい。今までエージェントとして多くの顔を見てきた。確かにその中には美しい顔も愛らしい顔もあった。けれど、それらはずっと標的か障害だったのだ。ただの物でしかなかった。三人が人として認識した中で、目の前に立つ二人は、美しすぎて愛らしすぎて、そしてわけがわからなかった。
「女…」
「悪いか」
ヒイロの歯切れの悪い言葉なんて、そうそう聞けるものではないと思いつつ、五飛の返しにデュオはいっそう苦笑を深めた。フォローのように、そういうこと、と付け加える。
「女だったんだー、おれたち…、って、おれはおかしいのか?」
「べつに、構わんだろう。性格を変える必要はない」
「そーだけどさ、なんかこんな格好してるとなあ」
「これはおれたちの性格を反映してはいない」
それはそうだろう、と三人は思った。デュオは、長い栗色の髪をいつもの三つ編みではなくサイドだけ後ろで結んで下ろして、淡いピンクのワンピースを着ている。五飛も髪を下ろし、真っ白なワンピースを着ていた。恐ろしいことに、二人ともハイヒールである。
ぽんぽんと言葉のやり取りを重ねるデュオと五飛に、三人はいつまで経っても着いていけない。カトルがやや立ち直って、また言葉を紡いだ。
「えーっとそれは…あの…」
「いろいろあって、男のふりしてたってこと」
「しかし、もう戦争は終わったからな。いつまでも偽りの姿でいる必要もない」
「これからは自分の人生歩みましょーっていう話だろ?」
「それは、そうだな」
「…了解した」
刻々と変化する現状にいつでも柔軟に対応できるように。そう育った三人がようやく立ち直り始める。そうすればあとは早い。ヒイロが、サリィは、と聞いた。
「もちろん知ってるぜ。レディも」
元々隠せるとは思っていなかったのだ。闇の中に生きているならば、いくらでも隠れようがあるが、これから自分たちは光の世界を生きることになる。そうすれば、どうしたってあの二人にはバレるとわかっていた。三人もそれがわからないではない。けれど、少しだけカトルが残念そうな顔をした。もっと早く言ってくれればよかったのに、と言わんばかりの顔だ。そういうなって、とデュオが苦笑を返す。そういうわけにはいかなかったのだ。五飛もふん、と鼻を鳴らした。たったそれだけだが、女だとわかったからといって態度を変えたら青龍刀で真っ二つにしてやるといわんばかりで、きっとデュオもそれを止めないだろう。むしろ五飛の刀を避けた後ろを銃で狙ってくるかもしれない。お転婆どころの話ではすまない二人だ。三人は悟られないよう小さく肩をすくめた。

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