03

ヒソカは気付いていたのかな、と思う。気付いていたのだろう。やっぱり知っていたんじゃないか、と腹立たしさが戻ってくる。でもそれはなんだか空っぽな腹立たしさだった。ふつふつとヒソカの腕から逃げ出したときのような怒りではない。ヒソカはどうしているだろう。オレが会いたいと思ったのに、あんな風に出てきちゃって。困ってるかな、呆れてるかな。そこまで考えて、もう会ってくれなくなったらどうしようと思った。だって、そうしたら、オレはこれから誰に頭を撫でてもらえばいいの。
ふとすべてが繋がった気がして、オレはいてもたってもいられなくなった。ポットをいっぱいにしてきたクロロに、ねえ、と切迫した声をかける。クロロは驚いているようだった。どうしよう、クロロ。オレ、ヒソカを置いてでてきちゃった。ねえ、どうしよう。動揺したオレは同じ言葉を何度も繰り返す。もともとたくさん喋る方じゃないからだろう。ねえ、どうしよう。そればかり。そんなオレにクロロはポットをテーブルに置いてから、大丈夫だと言った。確信を持った力強い笑みだった。信じられないけど、それに縋ってオレはヒソカのところへと戻った。

ヒソカ。呼ぶと、ヒソカはほっとしたような声で、イルミと呼んでくれた。オレはそれだけでヒソカがオレを許してくれたことがわかって、涙が出てきそうだった。抱きしめられたら、もうダメだった。どうして、どうしてこんなにヒソカのことばかり。腕の中でやっぱり同じ言葉を繰り返すオレに、ヒソカはオレの頭を肩口に寄せて、髪を梳きながらどうしてなんだろうねえ、と言った。わからないの、ヒソカ。尋ねれば、全部はわからないよ、と聞いた台詞。そう、と途方に暮れた声を出したら、でも、と返ってきた。初めて聞く、声だった。予想はつくよ。大切なことを言われるのだとわかった。イルミはね。心臓がうるさく鳴った。ボクのことが好きなんじゃないかな。

頭が真っ白になった。
時が止まってしまったようだった。え、とまんまるに目を見開いて、ヒソカの顔を見ようと思った。確認したかった。なにを、って、オレが、ヒソカを好き、って。茶色い瞳をまじまじと覗き込みながら、言葉の意味を咀嚼すると、顔がだんだん赤くなってきた。信じられない、あれだけ訓練したのに身体がみんな勝手に動いていく。真剣な茶色の瞳はそれだけで雄弁だった。絶大な威力があって、オレは耐えきれずまた肩口に頭を戻した。それから変わらず髪を梳く手つきに合わせて心を落ち着けていく。大丈夫、こういうのは慣れている。ゆっくりゆっくり。深呼吸するように、一つずつ。
オレは、ヒソカのことが、す、き。
かああとまた顔が赤くなった気がした。ぎゅっと握ったヒソカの背中。そう、でも、うん、離したくない。離したくない、よ、ヒソカ。
そうすると今度は急にヒソカはどうなのだろうと気になりだした。もう一度、恐る恐る肩口から頭を話す。茶色の瞳は、いつも通り優しげで、そう優しげ。だから、勇気が出て、ヒソカは、と小さい声で聞いた。沈黙に続きを促される。ヒソカ、は、オレのこと。そこまで言って耐えきれなくなった。目を伏せるオレに、ヒソカは耳元に唇を寄せて。
好きだよ、イルミ。

それから今まで自宅だったところは実家になって、その実家の面々は驚きに目を丸くしてちょっとした騒ぎになった。クロロも苦笑していた。オレはすっきりした気持ちで、でも何もかもが新鮮だったから、やっぱりちょっと大変だった。ヒソカだけがいつもより楽しそうに笑っていた。

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