プロローグ01

ああ、とデュオと五飛は思った。以前よりもっと前。ずうっと前の、優しくて柔らかな掌と声。どんなに力が弱くとも決して逆らえない、瞳。忘れていた記憶が思い出されて、なんだかむず痒い気持ちになる。そう、シスターもあんな風に怒っていた。母様もあんな風に悲しんでいた。その度に仕方がないと微笑んできたけれど。
「あなたたちは…」
きゅう、とサリィが唇を噛む。そんなことをしてはだめだ、とデュオは慌てた。平和になったんだから。女の子は、女の人は、ちゃんと身体を大事にしないといけない。大事にされなければいけない。泣かせるなんてもってのほかだ。だから、デュオは大丈夫だって、と微笑んだ。五飛も難しい顔をして、でもそれが微笑みの代わりだった。遠い、あの日と変わらない。
「自由なのだ」
サリィの代わりに響いたレディの声は、小さな雷だ。医務室の中でおさめてしまおうと思えば、おさめてしまえる。望めば、彼女たちはそうしてくれるだろう。けれど、光であることは確かなのだ。遠い、あの日には無かったもの。
困った目を、デュオはした。五飛も珍しく視線を落とした。それでも、顔をあわせ、互いを探るような目で見ないことが、二人らしかった。
「…個別の方が、よかったかしら」
強い子どもたちに、いらぬ配慮をしたかとサリィの顔が曇る。そしてそれがまた失敗だったかと、謝罪の言葉を紡ごうとした。しかし、その前にデュオが言う。あの、本心のわからない、だからこそ心強く聞こえてしまう声で。
「んなことないって。おれも…、うん、まあ、そういうやつがいるってわかってよかったし…五飛はどうかわかんねえけど」
「………、仲間というものは必要だ」
それをおれは知ったつもりだ。
五飛のきっぱりとした強い声に、デュオはそうだなと心の中で同意した。本当に、そうだ。迷ったときは、いつもその汚れのない声が響く。けれどそれは一歩間違えば頑なになり、許されるべき自分を見失うことも知っていた。甘い誘惑に屈したのだと、誤解してしまうのだ。
「五飛さえよかったら、だけどさ。ちょっと二人で話してもいいかな」
「私たちは構わん」
「…お前は今更何を遠慮しているのだ」
要らぬことまで口がまわるくせに、と五飛が睨む。そうだけどさ、とデュオが笑う。きっと演技だ。それがわかって悲しくなったけれど、その気遣いを無駄にするわけにはいかない。サリィもレディも、終わったら連絡を、と言って医務室を出て行った。

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