あさ
ガラガラと、戸の開く音がした。
近づいてくる足音で誰だかわかったけれど、まるで今気づいたみたいに、造花を作っていた手元から戸の方へと顔を向ける。
「おかえり」
彼の後ろには、今まさに天に昇ろうとしている陽の光があって、彼の顔を隠していた。
けれど、ほのかに・・・それこそ、一般人では気づかないぐらいほのかに香る汗の匂いと、土埃の匂い、それから・・・血の匂いで、大分疲れていることが知れる。
「ただいま」
紡ぎ出された言葉も、漸く、といった感じで、早く休ませてあげたいのは山々なのだけれど。
「風呂、沸いてるから」
汚れたまま干したばかりの布団に入ってほしくないのも、また本心。
まだ風呂に入る余力があるのは、わかっている。彼はこれぐらいで倒れこんでしまう人ではない。
「・・・ああ」
諦めた様に呟く彼。前回の経験から、入りたくないと言っても無駄だと悟ったのだろう。
よろよろとしながらも、絶対に倒れることが無いことを知っているから、其のまま見守る。
冷たい?・・・そんなことないよ。
風呂から出てきたばかりの彼は、立ったまま寝てしまいそうな様子だった。
けれど、最後の力で囲炉裏の前に座ってくれている。
勢いを失った炎が、静かに燃えていた。
心地よい温度だということは、さっきまで其処にいた自分がよく知っている。
寝なきゃいいけど、なんて心配しながら、先ほど匂った血の匂いの元、腕の傷に包帯を巻く。
腕の傷はもう、何個目だろ?
数えたらきっと、キリが無い。仕事柄、それは当然だ。
それでも、顔に傷が無いのは、実力の為だろうか。
・・・それともそれは、経験が浅いということなのだろうか?
そんな取りとめないことを考えながら、腕に包帯を巻く。
眠い所為か、彼から言葉は無い。自分も、話しかけない。
包帯が巻き終わって、道具を片付けた。彼は囲炉裏の傍から動かない。見れば、うとうとと其処で眠りの世界に片足を突っ込んでいた。
「寝るなら、布団にしてよ」
声をかけると、ハッとしたように起きて、のろのろと布団に向かう。
普段のキビキビとした動きからは、まったく想像もできない。
確か、造花の納入は今日の夕方までだった気がするが、気にしないで自分も布団に入った。
狭い煎餅布団。
何が悲しくて、大の男が二人その布団に一緒になって入らなければいけないのかわからなかったが、まぁいいや、と片付ける。夜通し造花を作っていたから、眠いのだ。
背中に、彼のあたたかい腕が回った。
狭いから、彼の胸に顔を埋める。
彼の匂いがした。
「ごめんな、きり丸」
ちぇ、やっぱりばれてたか。
いつも通りのつもりだったんだけど。
機嫌が悪いことと、それから其の原因までもが彼にはばれている。
背中に回った腕があたたかくて、優しくて、透明な滴が彼の着物を濡らした。けれど気にせず、彼の胸に顔を押し付ける。心臓の音を聞くように。
だって、しょうがないじゃん。
「二十日も放っておかないでよ、利吉さん」
小さな小さな声で呟いた。しょうがないって、知ってるから。
忍者なんて、そんなものだよ。
どんなに任務が長引いたっておかしくないし、 いくつ傷を作ってきてもおかしくないし、
いつ死んでもおかしくない。
忍者なんて、そんなものだよ。
ああ、だから利吉さんは俺に忍者の仕事をさせたくないんだな、なんて久しぶりに味わう彼のぬくもりの中で思った。
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利きりです。利きり。わかります?忍玉乱太郎の山田先生の息子の利吉さんと、きり丸です。
まっマイナーだなんて言わないで!知ってるから!! でも好き!笑。
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