SSlog03

くしゅんとくしゃみを一つ。
ぶるりと身体が震えた。なんとなくだるい。
ぼんやりと風邪をひいたのかもしれない、と思った。どこで貰ってきたのだろう。そんなことを考えながらいつもの廊下を歩く。今更地下にある自寮に戻るのはめんどうくさかった。
今日は風も吹いていないし、日も暖かい。窓の外には、小春日和のやわらかな世界があった。その中に、見慣れた栗毛を見つけて早いなと思った。
それでも歩みは変らない。ゆっくりと、気だるげに。実際、少々気だるいのだが。
「こんにちは」
かさかさと歩くたびに枯葉が音を立てる。一枚の葉さえ落ちていない自宅の庭より、こちらの方が好きだと思うのは、自分がまだ子供だからだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら、早かったなと返した。すると彼女は笑いながら、
「あなたが遅かったのよ」
ハリーと話し込んでいたでしょう?
この程度のからかうような物言いにはいい加減なれて、そういえばそうだったと至極普通に返した。ここらへんは大人になったかもしれないな、と思いながら。
「そういえば、彼風邪気味っぽくない?」
くしゃみをしていたのよね、と心配そうに言う彼女に、ああ、そうだなと言葉を返しながら、ここ三日ぐらいくしゃみが多かったのを思い出し、そうかこの風邪の持ち主はあいつかと合点がいく。
そこで、くしゃみを一つ。
「あらなに、あなたも風邪?」
目をぱちくりとさせて、大丈夫?と心配そうに。
「平気だ」
そういったのに、彼女は、
「きっとハリーのがうつったのね」
と笑った。
「迷惑な英雄様だからな」
フンと鼻をならすことにも、彼女は慣れたらしい。くすくすと未だ笑みを浮かべている。
「お前も気をつけろ」
ハリーから赤毛の貧乏人経由で目の前の才女へ。十分あり得る感染ルートだ。
「私は大丈夫よ。うつるようなこと、しないもの」
笑いを引っ込め、済ました顔でそういう彼女に、笑みを浮かべて、
「また喧嘩か」
くすりと笑いのひとつもつけてやれば、彼女の眉がぴくりとあがった。
「あなたに言われたくないわ」
「違いない」
くすくすと上機嫌に笑う。てっきり憤然とした態度が返ってくると思っていた彼女は、あらと小さく驚いた様子をみせた。
「怒らないのね」
「大人になったんだ」
枯葉を踏む音が好きだけれど。彼との喧嘩も止められないけれど。
大人びた顔を作って返す。紅茶を一口飲む演出付だ。それに彼女は疑いの目を向けつつ、その大人をわけて欲しいわとため息を吐いた。
「クリスマスが近いのに」
一ヶ月以上先のことに思いを馳せ、あーあと彼女はため息を吐く。それからくしゅんとくしゃみを一つ。
「…あなた経由で風邪がうつったらどうしよう」
なんだか、それって凄く悲しいわとくしゃみの勢いでか珍しく本音がこぼれた。
「そしたら、お前経由でうつしてやれ」
フフンと大人顔を継続したまま。彼女は名案だわと、くすりと笑った。
くしゅん。
作った顔が崩れた。悪寒が走る。
「でもまず、防寒の魔法をかけてもらうように頼むことから始めるわ」
うつすのはその後で。
「そうだな」
唯一の暖房器具、暖かいカップに手をのばしながら応えた。