SSlog02

「手紙を書きましょう」

名案だわ、と瞳を輝かせる栗毛の少女。
あまりにも馬鹿馬鹿しい彼女の提案に、ドラコは思わず頭を抱える。
誰か教えてくれ。本当に目の前の彼女は、自分を抑えて主席に座っているのだろうか。

「何を言ってるんだ…」
「あらだって。悩んでいるときはそのことを紙に書いてみるといいんですって。それに、遺書を書くと落ち着くっていうし」

私たちの場合は、人生で悩んでいるわけじゃないでしょう?だから、応用をきかせて、彼らに手紙を書くのよ。
ね、名案でしょう?
ふふふと笑う彼女は、ご機嫌な表情の所為もあってか非常に愛らしい少女だった。発想もまた十二分に少女らしい。
だが僕は少年なんだ。少女じゃない。
綺麗な眉を歪めて、彼はぶすっとした表情を作る。

「なによ。悩んでいるのは一緒じゃない。ね?私があなたのをハリーに渡すから、あなたは私のを…ロンに渡して?」

言いずらそうに、それでも大切に付け加えられた最後のお願いで、僕はだしに使われているんだと知る。
真剣な表情の彼女に、悪態ではなくため息を吐いた。まったく。
すると彼女の勝気な仮面はあっさりと剥がれて、恋に弱気の特別な素顔がでてきた。

「だって。…だって…。私、どうしても言い方きつくなっちゃうし、彼は彼でちっともできるようにならないし!」

こんなに一生懸命教えているのに、と怒っているんだか後悔しているんだか判断し辛い調子で彼女は言葉を紡ぐ。

「…謝りたいの」

彼は怒っていた。もういいよ、と苛立ちながら言っていた。
きっと悪いのは私だけじゃない。だけど、彼だけでもない。
試験前でピリピリしていた。きっと多分、七対三ぐらいで私が悪い。きっと。
だから私から謝ってあげる。…あなたも私に謝りたいんだと信じてる。

「口だと、また喧嘩になっちゃうから」

彼女はしおらしく落ち込まない。しっかりと前を見て、先の恐怖に怯えながら自分のしたことに後悔しながら、それでもしっかりと前を見て涙を流す。
ますます彼の表情は難しくなっていった。
悔しい。悔しい。こんな顔で頼まれて、断れるわけがない。断りたいのに!
内面の葛藤を残した苦い顔で、それでも彼は言う。

「…明日の昼に持ってこい」

ハリーを通してでも何でも、渡してやるから。
言葉にはしないけれど、彼女の顔はぱあっと明るくなって、ああもう!とドラコは頭を抱える。
こんな女の、こんな顔で全部を帳消しにしそうになる僕なんて、僕じゃない!
そう叫んでも、彼の中で梟代わりの手間は帳消しになっているのだ。

「あなたもね?」

嬉しげな顔で、持ってきてね、と言われる。ちょっとまて、僕は必要ない。

「あなたたちも、喧嘩してるんでしょ?」

さっきまでの恋する乙女はどこに消えたのか。気づけば彼女は、お喋り好きなただの女の子に戻っていた。

「ハリーがね、はぁ…とかふぅ…とかさみしげーにため息を吐いたの。違うとは言わせないわよ?」

ふふふ、とまたあの勝気な笑み。
まったくまったくまったく!あの眼鏡!

「ね、せっかくのチャンスですもの。謝ってしまえばいいじゃない」
「そんな必要は無い。悪いのはあいつだ」
「じゃあ、お前は悪いことをしたけど、僕はお前が好きなんだ。って書けば?」

大胆不敵。そんな笑みで彼女が面白そうにあははと笑う。

「冗談じゃない!」
「うん、本当だものね」

冗談じゃないわよね。
動じない彼女に腹が立つ。

「いいじゃない。手紙の中でぐらい素直になっても。私だって素直になるつもりよ」

手紙の中だけ、ね。ふふっ。

どうして女とはこうも顔がかわるものなのだろう。これで世の男どもを骨抜きにしてしまうのだろうか。
子悪魔のようにほんの少しだけ妖しさを混ぜて笑う彼女に、いつのまにこんな女になっていたんだろうと少々面食らう。
ずっと、ただ恋する少女だと思っていたのに。気づけば、恋する女へと。

「まぁ何を書くかはおまかせしますけど。とりあえず、明日、ね?」

せっかくのチャンス、あなたならむげにしないわよね?
そんな声が聞こえるのは、彼女の言外の圧力の所為か、はたまた自分の所為か。

わからないけれど、とりあえず。

秋の夜長をめいいっぱい使って。たまには月に相談なんかしてみたりして。
愛しいあなたへ、手紙を一つ、したためましょう。