TEATIME

綺麗な花もいいけれど、この若々しい緑も素敵よね。
昨日、芽吹き始めた緑を眺めそんな風に笑っていた彼女は、どうしてか今日はいなかった。
おや?と首を傾げる。今日は合同授業がなかったからわからないが、少なくともあのやかましい眼鏡は一言も彼女の具合が悪いだのなんだのとは言っていなかった。
先生か何かにつかまっているのか…?
とりあえずいつもの席に座り、目の前の空っぽの椅子を眺めながらどうしようかと考える。本でも読んで待っていようか。それとも、眼鏡か貧乏赤毛のところへ行くか…?
滅多にない状況に、どうしたものかと決めかねていると、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。この声は、眼鏡だ。…ということは、貧乏赤毛もいるのだろう。
「ドラコー!ドラコドラコドーラーコー!」
「うるさいっ!聞こえている!」
ぶちんと頭の決して短くは無い導火線が切れて、がたんと大きな音をさせて椅子から立ち上がり、叫び返す。どうしてこうも眼鏡というのは恥を知らないのだろう。あの眼鏡のせいで常識が見えないのだろうか。大声でずっと自分の名前を呼んだまま、彼はだんだんと近づいてきた。横には、予想通りの貧乏赤毛。
「ドラコっ」
自分の目の前に立ち、最後に弾むように自分の名前を呼んで、眼鏡はこんにちは、とさっきも会ったくせに笑顔で挨拶をした。それにしかめっ面と鼻を鳴らすことで応える。
「ドラコ、あのね、今日はハーマイオニーはこないよ」
そんな態度に慣れきっている彼は、そのまま話を続けた。
「こない?何故だ?風邪でもひいたか」
「ううん。違う。原因はね、これ」
最後の「これ」に合わせて動いた眼鏡の視線の先にはいつもより幾分…いや、大分しなびた貧乏赤毛がいた。
「…またか」
呆れたようにため息を吐くと、眼鏡の苦笑が返ってきた。
「今度は、ロンが悪いんだけどね」
「どっちだってかわらないだろう」
まあね、と自分たちを棚に上げてハリーは言った。
「…傷つけたいわけじゃないんだよ」
今にも泣き出しそうな、情けない声でロンが言う。やれやれ、今日はこいつの愚痴かと心の中で思いながらドラコは黙って彼の話を聞く。
「泣かせたいわけでもないんだ。笑ってて欲しいよ。一番。一番、傷つけたくないよ。誰よりも好きだよ。誰よりも好きなのに…」
なのに、とそこで彼はグスっと鼻をすすった。
「なのに、どうして誰よりも傷つけてしまうんだろう」
目、真っ赤だった。凄く怒ってたけど、でも、泣いてたんだ。と言う彼の目は話の中の彼女と同じく真っ赤で潤み始めていた。
そんなロンを見て、はぁ、と心の中だけでドラコはため息を吐く。全くどうしてこの男は、こんなにも鈍いのだろう?どうして誰よりも傷つけてしまうか、だって?
「それは、彼女が誰よりもお前を好きだからだろう」
俯いていた赤毛の顔が、はじかれたようにドラコを見た。ハリーも驚いた様子でこちらを見る。…なんだ、お前もわからなかったのか?英雄様。
「…そう、なの?」
「当たり前だ」
このバカ、というのはその心底情けない顔に免じて心の中にとどめておいた。
「ほんとに?」
「どうでもいい人間相手なら、傷つくわけがないだろう」
本当のバカだな、と思いながらも今だ疑っているロンにとどめをさす。
「いいか。彼女がお前のことが誰よりも好きだから、お前は誰よりも彼女を傷つけられるんだ」
わかったなら、こんなところでこんなことをしている場合じゃないだろうとドラコは横柄に言い放った。未だに彼女が泣いているのは、他でもない、未だにこのどうしようもないバカの赤毛を好きだという証なのだから。
ドラコのセリフに一瞬ポカンとした様子を見せたロンだが、次の瞬間にはハッと気が付いて走り出していた。
「…さっすがドラコ…」
一部始終を黙ってみていたハリーがドラコに向き直る。
「あいかわらず、すっごい捻くれてるね!」
「…誉め言葉のつもりか、それは」
ぎゅっと抱きついてきたハリーの腕の中でドラコは嫌そうに身体をねじった。
それにハリーはくすりと笑ってもう一度ぎゅっと力を込める。それでドラコは諦めたように体の力を抜いた。
「君って、本当に素敵だよね」
「…うるさい」

明日はいつもどおりの穏やかな昼が過ごせればいいと願いながら、とりあえず今日はハリーの腕の中での昼を楽しむことにした。