Look!Look!!Look!!!

「ハリーッ!」
少年の怒気を含んだ叫び声がホグワーツの時が止まった静かな廊下に響き渡る。昼休みの暖かい日差しに誘われて大抵の生徒は外に出て行ってしまっているから、廊下にはハリーしかいなかった。
乱暴に呼び止められたハリーには、しかし心当たりがない。それでも少年は怒っているわけで、ハリーは何だ何だと少しの不安と焦りに似た気持ちを抱きながら少年の方へ振り返った。
「どうしたの?ドラコ」
僕、何かした?言外にそう匂わせる。
視線を合わせれば、不思議そうな緑の目とは対照的に、淡い青の目は怒りに染まっていた。ハリーの姿を視界の端に捕らえて走ってきたのだろう。少し頬が赤くなっていた。
「あの赤毛は何処だっ!」
「ロン?」
どうやらドラコの怒りをかっているのは自分ではなく、親友らしい。わかってほっとしたものの、せっかく廊下で偶然出会ったのにこれから自分ではなく誰かの元へと駆けていくつもりなのかと少しむっとする。
けれど、そんなことを口に出したところでどうせ意地の張り合いになるだけだとわかっているので少し不機嫌そうに「ハーマイオニーと図書館」と答えた。
「そうか」
助かった、と形ばかりでお礼を言ってドラコはまたその細身な身体を走らせようとする。ハリーの不機嫌な声には全く気づかず。それにまた少しばかり腹が立って、ハリーはクィディッチで鍛えた身体能力をフルに発揮して造作なく、左脇を抜ける白い身体の細い左手首を捕まえた。
突然腕を捕まえられたドラコは前への勢いを上手く殺しきれずバランスを崩す。うわぁと声をあげながらも彼は転ぶことなくすぐに姿勢を整えて怒りに染まった瞳をこちらに向けた。にやりと心の中でハリーは笑みを作る。
「なんだ」
「何で怒ってるのかしらないけど、ダメだよ。邪魔しちゃ」
親友とその想い人はまるで別世界のような甘酸っぱい恋愛をしている。お互いがお互いを確かに好きだと自覚しているのに、まだ想いは伝えていない。そして、はたからみればすぐに気づくというのにお互いがお互いの気持ちに気づいていない。あの聡明なハーマイオニーでさえ、だ。
そんな彼らの些細な逢瀬を邪魔するのはあまりにも酷だろう。親友はともかくとして、いくらキリリとしたハーマイオニーだって女の子なのだ。
ドラコだってそれぐらいはわかっていて、特に彼は女の子に甘いから怒り顔がむっと不機嫌な顔になった。よし、とハリーは今度は心の中で呟く。
「いい加減離せ」
言われて、ハリーは抗うことなくドラコの手首から手を離す。けれど、彼が身体の向きをこちらに変えた瞬間に右手を掴んだ。
「なんだ」
さらに眉がよせられて、いっそう不機嫌な顔になったドラコにふふふと少々腹黒い笑みを見せてからキスをした。
「…っおい」
掠めたそれに、ドラコは予想通りの反応を返してくれてハリーの笑みは濃くなる。
「なんだそのにやけ顔は」
だらしない。まわりに誰もいないから薄い青の瞳に浮かんでいるのは怒りではなく、呆れだ。それが嬉しくてハリーは何を言われても笑みが止まらない。
「ね、これから中庭に出ようよ」
時間はまだあるからさ。
右手首を掴んだまま、ハリーは止まらない笑顔で不満そうなドラコを誘う。
「…しかたない」
少し悩んだ後に、ため息混じりに答えるドラコ。親友に怒ってたことなんて、きっともうどうでもいいはず。それでいい。彼の瞳に写るのは僕。それが嬉しくてしょうがない。そうじゃなきゃ腹ただしくてしょうがない。

二人っきりなのによそ見なんてさせておけないよ。